朝日新聞社の受験生応援サイト! asahiguma.com

ホーム  > 大学別「入試に出た天声人語」  > 赤ちゃんポスト

購読のお申し込み
朝日新聞
Power Up

大学別「入試に出た天声人語」

赤ちゃんポスト

今昔物語集には、京の都の門前に捨てられていた子が、犬の乳で育つという話が出てくる。幼子ふたりを養えないのでやむなく捨てると泣いている女から、ひとりをもらい受ける話もある。実際にも捨て子は多かったという(服藤早苗『平安朝の母と子』中公新書)▼この時代の「金葉和歌集」には、大路に捨てられた子を包んだおくるみに記された一首がある。〈身にまさる物なかりけり緑児(みどりご)はやらんかたなくかなしけれども〉。我が身のために愛児を捨てる苦悩がにじむ▼熊本市の慈恵病院が市に申請していた、保護者が育てられない新生児を預かる「赤ちゃんポスト」について、厚生労働省が設置を認める見解を示した。これには賛否が分かれそうだ。安易に利用されたら問題だという見方がある一方で、何の罪もない子の命が助かるなら意義深いという意見もあるだろう▼厚労省は医療法や児童福祉法などに違反していないというが、法令違反がないことは最低の条件だ。新生児を受け取る側には、いわばその子の一生を引き受けるような覚悟と備えが求められる▼「赤ちゃんポスト」という名前には、物を入れるような冷たい印象がつきまとうが、慈恵病院では「こうのとりのゆりかご」と呼んでいるという。無機的な物を入れる印象を避け、「こうのとりが運んでくれた大切な命」という気持ちを込めて付けたそうだ▼設置が本決まりになった場合は、ポストのような箱ではなく、命を育むゆりかごになってほしい。その行方には、この社会のありようも映し出されているはずだ。

一覧へ戻る