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大学別「入試に出た天声人語」

スローフードと雑煮の味

通りが静まり、いつもよりゆったりと時が流れてゆく。そんな思いを誘う三が日が過ぎた。正月の各地、各家庭に伝わる雑煮が、このゆったりとした時間とよく溶け合っているのを確かめた人も多いのではないか▼だいぶ前の1月の今頃、同僚と雑煮の話になった。彼の故郷では、トビウオを焼いて干したもので出しをとるという。当方ではハゼを焼いて干したものを使う。生地は列島の南と北にはるかに離れていても、同じように海と向き合っていたのかという思いがした▼雑煮の持つゆったり感は、出しの材料をかなり前から準備することだけで醸し出されるのではない。例えばかつて実家では、年末になるとダイコンとゴボウをゆでて千切りにし、板に載せて外に出していた。夜は寒気で凍(し)み、昼は日光でとける。それを3日ほど繰り返し、ほのかに甘みが出たものを使っていた▼近年、ゆったりゆっくりのスローを冠した「スローフード」という言葉や運動を耳にする。画一的なファストフードに対し、その土地に根ざした料理を大切にする考え方だ。今でも土地の数だけありそうな雑煮は、さしずめ日本のスローフードの代表格か▼この運動の起点となった、北イタリアのブラという小さな町に立ち寄ったことがある。休日で、人々は球技や屋外での壁登りなどをしていた。年齢層は幅広く、老若男女そろって楽しむ雰囲気だ▼昼時、駅前の食堂に入った。パスタと豆の温かいスープには、ほっとする味わいがあった。今思えば、あの地に根ざした雑煮の味だったのかも知れない。

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