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大学別「入試に出た天声人語」

水の大切さ

学生時代にネパールを旅したとき、街道の茶屋に入った。主人がコップを洗うのを見ていると、まず10個ばかりをテーブルに並べ、その一つに水をいっぱい入れた▼次に、その水を隣のコップに移した。さらに隣に、また隣に、と移していった。それが、「洗っている」のだった。1杯の水で10個を洗うのである。谷川までの水くみが重労働なんだ、と主人は言った。水の貴重さに驚き、節約の知恵に恐れいったものだ▼思い出したのは、本紙の声欄で大分市の女子中学生、小沢さんの投書を読んだからだ。さんは中国福建省で育ち、3年前に母親らと日本に来た。向こうでは夏には水不足になり、日に何度も井戸の水をくみに行ったという。水の大切さが身にしみているといい、日本での節約ぶりを書いていた▼電話で聞くと、大きなバケツを天秤棒(てんびんぼう)で担いで水を運んでいたそうだ。いまも、洗面器に水をためて顔を洗う。それを捨てずに掃除に使う。学校の水場で友達が水を掛け合っていると、「もったいない」と思ってしまう▼今年上映された仏映画『約束の旅路』の一場面が、重なった。干ばつのアフリカ難民キャンプから救われた少年がシャワーを浴びる。少年は排水口を両手で押さえ、「ダメ」と叫んで、流れていく水を必死で止めようとする▼猛暑にうだって、水のお世話になる日々である。水ゆたかな国土に感謝しつつ、胸に手を当てて、わが無駄遣いを自省する。さんにならって、せめて蛇口のこまめな開け閉めぐらいは心がけることにしよう。

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