ホーム > 大学別「入試に出た天声人語」 > 子どもの漢字力
若い世代の漢字力を案じる一文を、1974(昭和49)年の当欄が書いている。教え子の高校3年生から便りをもらった先生が、一読びっくりしたそうだ。「秋も段々深まりました。姉も段々色づきました」。「柿」のつもりが「姉」に間違えたらしいと、当時の筆者は苦笑ぎみだ▼いまの筆者はその年に高3だった。柿を姉とは間違えなかったが、何かのおりに祖父を「粗父」と書いた。「年寄りを粗末にするな」とクラスで教師にからかわれ、頭をかいた覚えがある▼ベネッセ教育研究開発センターが、小学生の漢字力を調べた。それぞれの学年で、学習ずみの字に応じて、計約9千人を対象に「書く力」を試した。その全体の正答率「58%」を、不肖の筆者はどうとらえようか▼送り仮名はむろん、書くときの「とめ」や「はね」から点画まで、厳しく採点された。わが日常を省みれば、パソコンにほぼ丸投げの要素である。6年間に学ぶ漢字は1006字ある。正答率を「低い」としかって恥じない自信は、恥ずかしながらない▼日本語に精通する数学者ピーター・フランクルさんが愉快なことを言っている。故国ハンガリーはノーベル賞受賞者の輩出率が高い。その理由を、人々は「ハンガリー語が難しいから」と答えるそうだ(『望星』1月号)▼「子どもにとって母国語が難しいことは恵み」とは、戦後すぐの「漢字廃止論」と正反対の視点だろう。漢字を操ることが子どもの力を引き出す。そんなピーターさんの意見に、不肖ながら一票を投じたく思う。