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大学別「入試に出た天声人語」

心身を癒やす緑

午前5時すぎ。夜は明けたが、まだ日の光が届かない森の木々は、薄い灰色のとばりの中で眠っている。森閑とした中で、せせらぎの音が時を刻んでいるようにも聞こえる▼昨日、長野県佐久市の森を歩いた。市の東部に広がる平尾山の周辺は、「心身を癒やす効果が科学的に確認できた」と林野庁が今月発表した全国10カ所のひとつだ。癒やし効果には、森林浴で血圧や脈拍数が下がることなどがあるという。「みどりの日」を前に、その森の中に身を置いてみようと思った▼明け方には無彩色だった森の色が変わったのは、山かげから日の光が差し込んだ時だった。それまでじっと息をひそめていたような木々の若芽が、一斉に輝き始めた。その無数の緑の粒々は、森の生気を表しているようだった▼当然ながら坂道が多く、上りが続くと、脈拍はいっときは増えた。しかし、しばし立ち止まれば、さわやかな風にほっとする。足元は、落ち葉でふかふかだ。人とほとんどすれ違わない「異境」を味わう▼そのうちに、木々や鳥や虫などを育む森という一つの世界を成り立たせているなにものかを畏(おそ)れる思いがわいてきた。それが、数字で計れる効果とはまた別の、森の力だろうと思った▼梅の花が残り、桜がほぼ満開の佐久を昼すぎにたって、東京に戻った。街路樹の緑は、目覚めの遅い森の木々よりずっと濃くなっている。葉も、日に日に大きくなる。ケヤキ、イチョウ、ヤナギ……。ビルと車と人波に囲まれながら、それぞれの命を燃やす。そんな街の緑の生もまた、切なく貴い。

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