朝日新聞社の受験生応援サイト! asahiguma.com

ホーム  > 大学別「入試に出た天声人語」  > 「頑張る」

購読のお申し込み
朝日新聞
Power Up

大学別「入試に出た天声人語」

「頑張る」

新聞に載った「企業トップの年頭あいさつ」のうち、丸紅の鳥海巌(とりうみいわお)社長の話した一節が、おもしろかった▼「日本人は、本来まじめだ。『頑張る』と思わないでも、自然に頑張ってしまう。『頑張る』というと、かえってプレッシャーを受け、固くなって実力を発揮できず、はかばかしい結果を得られないことが多い。社員諸君、『頑張る』と口に出すな」▼そういった趣旨だ。鳥海さんは昨冬、一カ月を超える闘病生活をした。それで、ものの見方を深めることができた、という。「あなた方はプロなのだから、自分の仕事をエンジョイしながらやれ」とも説いた▼たしかに私たちは、自分に対しても他人に向かっても、「頑張る」とか「頑張ろう」「頑張れ」と、しばしば口にする。スポーツ大会の選手宣誓で「頑張ります」と誓う。「頑張って勉強して、いい成績をとれ」と子どもにハッパをかける。「頑張って、早く元気になってください」と病気の人を見舞う。労働組合の集会で、ガンバローとこぶしを振り上げる▼しかし、考えてみると、このことばの意味合いは、かなりあいまいだ。同僚が、車いすを使っている人の、こんな体験を聞いた。「昔から『足が不自由でも頑張ってね』と何度もいわれた。その裏には『足が不自由イコール不幸』という意識があるように思った。私にとっては生まれたときから付き合ってきた足だし、このままで十分幸せに生きていけるのに」▼耳の聞こえない子どもに、先生が「頑張れ」と繰り返し声をかけた。その子は、いった。「私は頑張っている。でも、どこまでやっても、頑張れ、としかいわれない」。先生は励ましたつもりだろうが、なにを、どの程度、どうすればいいのか、はっきりしない▼「頑張る」は、どこか、せかせかした感じだ。「頑張れ」には、ときに無神経で残酷な響きがある。

一覧へ戻る