ホーム > 大学別「入試に出た天声人語」 > 日本人の名前の表記
ベルリン自由大学で日本学を教えているイルメラ・日地谷(ひじや)・キルシュネライトさんが、日本人の名前について興味深い指摘をしている。作家の安部公房は、アベ・コーボーか、コーボー・アベか、というのだ▼考えてみれば、日本人が自分の名前を普段と違う順序に書く、というのも奇妙なものだ。西洋とのつきあいが始まったころに、先方に合わせて考え出した自己紹介の工夫の名残だろう。だが、ドイツ語圏では、すでに日本式の順序がある程度知られている、という▼キルシュネライト教授によると、最近、欧米諸国で、日本人の名前を日本式に「姓・名」の順に並べる出版社が多い。しかし「名・姓」順の表記も依然存在する。日本をよく知らない人は、どちらが姓で、どちらが名なのかと、迷うことになる▼日本での呼び方と同じ順序で「姓・名」を自然に名乗るのがよいのではないだろうか。中国、韓国、シンガポール、その他、外国の人々に対しても国内でと全く同じ順序で名乗っている国や地域が、アジアには多い。トウ^小平(デン・シャオピン)は、シャオピン・デンとはいわない▼二葉亭四迷は「くたばってしめえ」を号にした。これを姓名のように考えて順序を逆にでもしようものなら、意味が消えてしまう。外国の言葉や人の名を模した、宇井無愁(ウイ・ムシュー)、江戸川乱歩(エドガー・アラン・ポー)なども、逆立ちさせたら形なしだろう▼筆者はローマ字の名刺の名前を、ある時期から「姓・名」の順に印刷している。ただし、姓はすべて大文字、名は頭文字だけが大文字、あとは小文字である。名簿の表記のようだが、これなら読む人も姓名を区別できる▼そして渡す時に必ず、日本ではこの順序ですと説明する。世界には、個人の名が先に来るところもあれば、逆のところもある。それを人々に知ってもらうことが大事だ。