ホーム > 大学別「入試に出た天声人語」 > はかない惑星、待ったなしの危機
鏡に映った己(おの)が姿を見ると、人は自分の存在をより強く意識するという。電車に飛び込む自殺を防ごうと、ホームに鏡を設置した駅がある。鏡に映る姿を見ることで、思いとどまる効果を狙ったそうだ▼地球を鏡に映すことはできない。長く実像を知らなかった人類は、68年に1枚の写真を手にする。月を回るアポロが写した地球は、漆黒の宇宙に、青く、はかなげに浮かんでいた。写真は人々の“愛球心”をかき立てる。70年代にかけて、アースデー(地球の日)制定など環境運動の波が世界に広がっていった▼地球を「美しい星」と呼ぶ温暖化防止の構想を携えて、安倍首相がサミットに臨んだ。2050年までに、世界の温室効果ガス排出を半分に減らす考えだ。話し合いを日本が先導する意気込みだという▼これまで冷淡だった米国も、サミットを前に新提案を発表した。「経済を損なう」と意固地だったブッシュ大統領は、「米国が主導する」と豹変(ひょうへん)した。削減を急ぐ欧州連合(EU)にハンドルを握られると厄介だ。そんな思惑が、チラチラのぞく▼鯨にのまれたのに気づかず、安穏(あんのん)と泳ぐ小魚のたとえがある。温暖化は、地球がまるごと鯨にのまれたようなものだろう。待ったなしの危機である。ようやく気づいたけれど、各国の事情で対策の足並みは揃(そろ)いにくい▼アポロの写した地球を「宇宙に漂う奇跡」と呼んだ人がいた。その奇跡の星に間借りして、私たちも、他の生き物も暮らしている。排出ガス削減という家賃の、これ以上の滞納は許されまい。