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大学別「入試に出た天声人語」

生誕100年、中原中也がいたら

お祝いの弦楽四重奏の中を、人の川がゆっくりと、建物の奥に消えてゆく。一昨日、東京駅の空を削って38階建ての「新丸の内ビル」が開業した。向かいの丸ビルも5年前、37階に化けた▼戦前の丸ビル風景を、中原中也の「正午」が伝えている。〈月給取(げっきゅうとり)の午(ひる)休み、ぷらりぷらりと手を振つて/あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ〉。30歳で逝く年に「東洋一のビルヂング」をこっけいに活写した詩人。きょうは生誕100年にあたる▼七五調や擬音語、繰り返しにより、声に出すと味わいを増す作品が多い。代表作「サーカス」の中ほど、空中ブランコを描いた部分がよく知られている▼〈頭倒(さか)さに手を垂れて/汚れ木綿の屋蓋(やね)のもと/ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん〉。中也自身、この詩を好んで朗読してみせた。肉声は残っていないが、友人によると、なかなかの名調子だ▼「ハスキーな低音で、しかも胸に泌(し)みこむようなさびしさとキリモミのような痛烈さ」と草野心平。聞かせどころの〈ゆあーん〉の行は「仰向いて眼(め)をつぶり、口を突き出して、独特に唄(うた)った」(大岡昇平)という。ふと、100歳の中也がいたら、と夢想する▼中也に詳しい詩人、佐々木幹郎さんは「季節感をなくした街に戸惑いながらも、身体感覚で詩を作るでしょう」と語る。〈汚れつちまつた悲しみに/今日も小雪の降りかかる〉。過ぎし青春をそう嘆き、すねた中也。「悲しみ」をどこかに忘れてきたような東京の、何を、どんな調子で聞かせてくれるのか。

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