ホーム > 大学別「入試に出た天声人語」 > 電車でのマナー
まぶしかった夏休みも過ぎ、けだるい日常が戻ってきた。そんな朝に、ささくれだった光景に出くわした▼通勤電車の中で、40歳過ぎの女性が目の前に座る女子高生を怒鳴りつけていた。女生徒がカバンを脇に置いているので座れない、と注意したようだ。でも、女生徒は携帯電話でメールを打つばかり。相手の指摘を無視して、だんまりを続ける。2人の顔がみるみる赤くなる。一触即発である▼駅構内や車内での暴力事件が増えつつある。日本民営鉄道協会によると、大手私鉄16社で昨年起きた駅員への暴力行為は約140件にのぼる。統計があるこの6年間で最も多かった。ことしはさらに上回るペースだ。客同士のいさかいが刃傷ざたにつながった事例も多い▼どうやら、乗客のイライラした視線が絡み合うのは、暑さのせいだけではなさそうだ。京王電鉄(本社・東京)ではマナーの向上を呼びかける川柳を、年に5回ほど公募している。最優秀作を漫画家のやくみつる氏がポスターに描き、車内やホームに張り出している▼応募作には「乗車口どうしてここに仁王様」「ヘッドホン耳を隠して音隠さず」「うるさいよあなたの自慢の着信音」「カラコロと空き缶車内を一人旅」などがある。マナー川柳はJR北海道でも募集した。確かに、車内放送より、にっこりできるポスターの方が和める▼周囲をハラハラさせた女性と女生徒は結局、別々の駅で下を向いて降りた。あの2人にはこんな作品がぴったりくる。「人が立ち荷物が座るやるせなさ」「その荷物彼氏のつもりで膝(ひざ)枕」