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大学別「入試に出た天声人語」

命の約束

こんなニュースを読むと、生命を「いのち」と平仮名で書いてみたくなる。体重わずか265グラムで生まれた女の赤ちゃんが、無事に育って東京の慶応大病院を退院した。日本ではこれまでで最も小さく、世界でも2番目という▼予定より15週早く生まれた。体の機能が未熟だったため人工呼吸器をつけ、へその緒の血管から栄養の点滴を受けた。いまは自分でミルクを飲めるようになり、体重も3千グラムに増えた▼生まれたとき、どれほど小さかったのか。試しに手元のバナナをはかりに載せると、ほぼ同じ260グラムである。たったこれだけの重さに人間の生命が宿り、消えることなく育っていった。小さな「いのち」のたくましさに、粛然となる▼赤ちゃんには不思議な力があるらしい。作家の大庭みな子さんは育児体験をもとに、「放っておけば死んでしまうはかなさと哀れさで、親の中から信じられない力を引き出す」と随筆に書いた。わけても265グラムのはかなさは、医師や看護師から、並々ならぬ力を引き出したことだろう▼退院していった赤ちゃんに、高階杞一さんの詩の一節が重なる。〈……今から何十億年か前 そんな 遠い昔からの約束のように 今 ぼくが ぼくという形になって ここにいる ふしぎだ〉。高階さんは息子を3歳で亡くした悲しみを胸に、いのちの言葉を紡いできた▼新しい学年の始まる季節。自分も、まわりの友だちも、みんな遠い昔からの約束のように、学校に、クラスに集う。一人ひとり、一つずつ、いのちを持って。

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