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大学別「入試に出た天声人語」

キンモクセイと温暖化

兵庫県の但馬地方で農業を営む奥義雄さん(72)から、今年はキンモクセイの花が遅かったと便りをもらった。電話で聞くと、身近な自然を観察しながら、長く日記をつけてきた方だという▼いつもなら9月19日ごろから甘い香りが漂うのに、今年は気配がなかった。あきらめかけた10月3日にやっと匂(にお)ってきた。ここ35年で、これほど遅いのは初めてという。「酷暑の影響でしょうか。自然の歯車がおかしい」と案じておられた▼9月の残暑も記録的だった。暑さだけではない。雨無しの日が長く続き、降れば滝のように叩(たた)きつける。そんな、「渇水か豪雨か」の二極化も著しい。自然の歯車の、もろもろの変調の背後に、地球温暖化の不気味な進行が見え隠れしている▼その温暖化が、米国の前副大統領アル・ゴア氏へのノーベル平和賞で、くっきり輪郭を現してきた。もうだれも目を背けられないという焼き印が押された。氏は「伝道師」を自任して啓発を続けている。今回の受賞は、その評価を超えて、世界に「今すぐの行動」を求めた鐘の音でもあろう▼「上農(じょうのう)は草を見ずして草を取る」という言い習わしがある。良い農夫は雑草が芽を出す気配を知って摘み取る、の意味だ。「中農は草を見て草を取り、下農は草を見て草を取らず」と続く▼温暖化に対し、私たちに「上農」の聡明(そうめい)さはなかったようだ。せめては「中農」の愚直さで向き合わないと、地球は危うい。下農にはなるな――キンモクセイの遅咲きは、自然の鳴らす、ひそやかな鐘とも聞こえる。

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