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大学別「入試に出た天声人語」

「夏の物語」 高校野球

あと一つアウトを取れば、この日、早稲田実が負けることはなくなる。それと同時に、駒大苫小牧の勝ちはなくなる。全国高校野球選手権大会の決勝戦は、延長の最終回となる15回表2死の場面で、こんな切ない瞬間を生んだ▼早稲田実のエース斎藤は、その一つをしっかりと取り、駒大苫小牧は「勝ちがない」という窮地に立った。しかし、こちらのエース田中もまた見事な踏ん張りを見せ、最後の攻撃を退けた▼8回表に本塁打で1点を先取された早稲田実は、すぐ、その裏に追いつく。以後、双方とも追加点を許さない。がっぷりと組み合った攻防は、決勝戦にふさわしい緊迫感と躍動感にあふれるものになった▼長田弘さんは「夏の物語――野球」という詩の中で、「動詞だ、/野球は。/すべて/動詞で書く/物語だ」と書いている(『長田弘詩集』ハルキ文庫)。滑る、飛ぶ、走る、殺す、追いこむ、といった数十の動詞を詩にちりばめながら、野球に特有の躍動感をうたう▼「ギュッとくちびるを噛(か)む」「どこまでもくいさがる」といった表現もある。そして、詩はこう結ばれる。「あらゆる動詞が息づいてくる。/一コの白いボールを追って/誰もが一人の少年になる/夏。」▼引き分け再試合と決まった時、この日の両チームには当てはまらなかった動詞が二つあると思った。「乱れる」と「譲る」だ。ヒットを許し、点は与えても、ほとんど乱れなかった。そして、互いに一歩も譲らなかった。きょう再び、甲子園で動詞が熱く飛び交い、最後の「夏の物語」がつづられる。

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