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虫にしては、「文」というありがたい文字を名前にいただいて一見厚遇されているかのような蚊だが、虫偏につく「文」は単に羽音のブーンを表すらしい。古今、蚊の愛好家というのはあまり見あたらず、嫌われ者の代表のような虫である▼眠くなって横になったが、蚊が顔のまわりを飛びまわる。「いとにくけれ」と清少納言も邪険に言い放った。蚊遣(かや)りといって煙で撃退するか、蚊帳をつって侵入を防ぐか。古来の知恵である。〈川風や灯火消えて蚊屋の月〉(幸田露伴)。蚊帳には独特の風情もあった▼うっとうしいだけでなく、蚊はいろいろな病気のもとを運ぶことがわかってきた。北米で流行している西ナイル熱もそうだが、犠牲者が最も多いのがハマダラカが媒介するマラリアである。アフリカを中心に、世界で年間3億人を超える患者が出て、毎年100万人以上が死んでいる▼日本ではあまり目にしなくなった蚊帳が予防に貢献している。たとえば、今年創立25周年の「難民を助ける会」は、ザンビアのアンゴラ難民にこれまで1万張の蚊帳を配布した。夜行性のハマダラカから身を守るのに役立てている▼難民家族からはこんな声が寄せられた。「生後3カ月から蚊帳を使い始めた2歳の子は2回しかマラリアにかかっていない。生まれたときから蚊帳の下で寝ている下の子は一度もかかっていない」。「助ける会」の日本人スタッフもこれまで2人がマラリアで亡くなった▼〈血を分けし身とは思はず蚊の憎さ〉(丈草)。虫偏に「去」と改称して退場を促そうか。