ホーム > 大学別「入試に出た天声人語」 > 入学式に思う
時代の波は荒々しいが、そんな中で新しい生活に踏み出す人も多い。受験勉強から解放されてほっとしている学生も少なくないだろう。きのうの東大入学式では、佐々木毅学長がこう語った▼「受験勉強というものが如何(いか)に狭い意味での競争でしかなかったか……人生そのものと比較した場合、実に例外的な、片隅の競争でしかありません」。そんな片隅の競争しか知らない人を寄せ集めてもまともな社会はできない、と戒めた▼大学入学の頃を振り返ると、新鮮だったこととして覚えているのは「教科書」だ。教材を寄せ集めた教科書ではなく、多くは1冊の普通の本だった。切れ切れの内容ではなく、ひとりの著者が最初から最後まで書いている。そんな当たり前の本を授業で読めることがうれしかった▼言い換えれば、高校までの教科書がいかに魅力に欠けていたか。編者の苦労は察するが、1冊の本を読む楽しさと苦労とを与えてはくれない。おかげで授業外で寸暇を惜しんで普通の本を読む気にはさせてくれた。先日、高校の教科書検定について報じられたが、そうしたいろいろな教科書があっていいのではないか▼東北大学の入学式では、吉本高志学長がノーベル賞受賞の卒業生、田中耕一さんについて触れ、卒業に5年かかったことやドイツ語が苦手で大学院に進まなかったことなどを紹介して「人生は不思議なものだ」と述べた▼田中さんの大学での専攻は電気工学だったが、ノーベル賞は化学で受賞した。大学が必ずしも人生を決定する場所ではないことも教えてくれる。