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『朝日新聞』06年4月30日付 シンポジウム「この国の行方を探る」基調講演「近代化の恩恵、世界中に」山崎正和氏の文章より世界中で日本ほど、近代の恩恵を受けている国は少ない。それも私の一生の間に、劇的な変化を遂げて豊かになった。
1日に50人死んでも報道されないのが当たり前の国や、貧富の差が非常に大きく社会問題になっている国もある。私たちは大げさに言えば「地上の楽園」に暮らしている。
米国でイスラムであると名乗るのは命にかかわるが、この神戸大にイスラムの学生がいても誰も問題にさえしない。こんなに自然に政教分離ができている国はまずない。
私たちはこういういい国をつくった。それをこれからも守り、発展させ、そのための環境を国際的に整備することが、この国の行方だ。「文明の衝突」など、物騒な議論はあるが、静かな目で見れば、世界はかつてなくひとつになりつつある。
日本人が非常に速く近代文明を受け入れたのには、理由がある。日本人は早くから識字率が高かった。昔から、ものをつくること、技術を尊重してきた。また、商売を軽蔑(けいべつ)しない。士農工商は建前で、実際の生活は貧乏武士より大金持ちの商人の方がはるかに豊かだった。商人のモラルも高かった。それで近代化が簡単に進んだ。
日本が19世紀後半に、こんなにうまく近代化に成功したことは、単に日本人を幸せにしただけではない。近代化という文明が、一握りの白人のものではなく、普遍的な原理だということを、世界史の中で証明した。日本人の歴史の中で、最大の功績だ。
今後の日本人のミッション(任務)は、経済、政治から日常の倫理まで、近代化を世界中に広めることだ。
いまだに宗派対立で争っている人にはやめろという。人権は尊重しなさい、民主主義にかじをとりなさい、政教分離をしなさい、国民の教育を高めなさい――。そういう原則を持った外交をすべきだ。外交当局に限らず、私たち個人個人が、近代化のパイオニアだと思って、外国人にものを言う必要がある。